ラヴェルの「ラ・ヴァルス」(シャルル・デュトワ指揮の)

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雲がひそやかにゆうぐれに濡れ、風の腹のうちがわに丸められてゆく。黄金色のぬくみが、果てにひろがるあの不毛の畑の土に溜まるのを、私はこの丘の上からかろうじてながめることができる。
翳りが漂白された光をゆびさきで千切りながら、彼の女のスカートと同じようにあやうく、そのつめたさとあたたかさにくすぐられる肺が、とてもよろこばしい。
いま、
間近を走り抜ける白い馬の、はりつめた皮が翳りの色に眩しい。氷を薄く纏う白色のそれはかすかにふるえ、土を踏む重みに耐えながら風を幾重にも裂き、クレッシェンドの縫い目を見つけあぐねながら――それでも、つきすすんでゆく。
踏み鳴らす蹄の上にふりそそぐゆたかな草の臭う馬の息ののち、ひとびとはうつ向きながら種を撒いてゆく。にび色のいろどりがひとびとの手から滴りおちながら世界を浸して、春と冬のぶきような裁量にそっと投げ出される。あらゆる場所の赤く渇いた喉から、糾合が耳にあたらしい。やせた子どものような茎は土のおもみに首を垂れてまだ夢の残りをかじっている。その歯ざわりがさらさらと風琴になって静けさを煮つめていく。畑には沈黙の油膜がはっている。

やがてしんしんと降る青、底抜けの暗がりをそのまぶたの裏にたたえて、虚ろな空がおそろしくかがやくほどのひりついた神経症の青。
鳥の羽音が真昼の鈴に似て誰も呼ぶことがない。だからうつろはここで、凪の波と同じ広がりかたをする。