大切なことを選び取るには思っている以上に大変な労力が必要で、
大切なことを選び取ったとしても、それを選び続けて行くことは非常に困難だ
 
自分の夢を言い訳に使うこと、これが殆ど無意識に、しかしごく小さな小さな、目に見えないくらいの良心の呵責とともに行われてしまうことがある 私はそれに気づいた瞬間くらい沼のような罪悪感と劣等感にさいなまれる 怠惰な根性は靴裏のガムのようにはがしてもはがしきれない粘度でもって 私の心にまとわりついている それを丁寧にはがしていくこと 靴裏に残ったガムの、甘ったるい苺の香まで、完璧に取り除くこと 
 
大切なことに誠実であろうとすればするほど 弱い私はその困難さに迫られる 大切なことを選び取るためには しなければならないことがものすごくたくさんあって そのとき、自分の強さが試されていることがよくわかる あ、これから逃げたら、自分の人生や夢への到達点が 違うかたちになるだろう、そう直覚する瞬間がある 自分はポジティヴなほうだと自負しているから そういうときに悉くくじけている(いた)ことを後悔はしない だが 自分の人生に変化を与える瞬間、取り逃がせない「いま」というものが現前する瞬間、それは自分が苦しまなければいけない苦しみの、むき出しの瞬間だったのだと思う 
  
いま 息をぜえぜえ言わせながら、それでも戦っていない自分を知っている
本当の苦しみは自分の心が生み出すものじゃなく、神様から与えられるものだ
その、空から与えられる苦しみに対して、自分が余りに弱いから、心が苦しみを生み出して、本当に苦しまなければならない苦しみを先送りにして モラトリアムを設けている それは憎むべきことだ、饐えた匂いのする 堕落した根性のあらわれだ ←こんなことを書いている、書いているという事実こそが、それを証明している、この文章は、腐ったモラトリアムの膿だ、賢明な人間は、それをすするような、それにかまうようなまねはしない 強くなれ まぶしい地平線の太陽を見つめる目をぼくに下さい、
 
言い訳が頭のなかにこだましてしまってひどい 今のところ これを乗り越えることこそ 僕が苦しまなきゃならない苦しみなんだろう 長年の生き方の問題だろうが 泣きたい
 
みんな嫌いだと言いたくなる インターネットの日記を見ても 予備校に居ても ぼくに優しくしてくる人たちにも あんたらみんな嫌いだと言って 両手で人間をみんな押しのけて 白い砂漠に吹きさらしで凍りついて 眠るように居なくなりたい はてなダイアリーを 30日も書いてしまうと ここでははてなダイアリー市民にされてしまう そのたびにぼくは言いようもない苛立ちをおぼえる ぼくはこんなイカレた町の住人になる気はなくて 軽い環境で文章を自分勝手に書いて 通行人に見せびらかして 白い目でみられて このどうしようもない自己顕示欲を充たしたいだけだ 年賀状を十年来の友人に書いた でも友人は返してくれなかった それが気にかかっていていながら たいして悲しく無い自分がいることに 自分は冷たいのだろうかと考えて 色々な人に「冷たい」といわれたことを 思い出す 
ただただ、人と人の間に交わされる意図が、鬱陶しい それを汲み取るたびに僕は悲しくなるよりほかない 未練がましい目で ひとびとはいつもどことなく悲しげに笑う 僕はその目を潰したくなる その目の奥にかくされた言葉を引きずり出したくなる どうせ「さようなら」のあとで家に帰れば みんなこんな風に 暗い日記を書くんだろ? 
間違っているんだと思う ぼくは人をちゃんと愛さなくてはいけないけれど 誰かに手を振ってさよならを言うことや 一人でうずくまっていることは 誰かと手を繋ぐことや 誰かと笑いあうことよりも ずっと簡単で 僕はそういう場所で遊んでいるのになれてしまった 誰が僕を離れても その人が死ななけりゃ 多分ぼくは笑ってバイバイと言えるだろう  これも運命だからね、遠くにいるってことがわかってれば、ぼくは寂しくないよ 人と人なんて生まれて死ぬまで孤独だもの たまにそれが交差する、その瞬間におきた奇跡を大切にしたいよね なんて言って したりがおで達観したつもりになって 毛のはえた心臓で  ちっとも執着とかするそぶりをみせないように努力して 寂しげな人の心を できるだけたくさんえぐることばかり考えている そのくせ自分にあたえられた優しさや慈しみへの償いは ぜんぜん済んでいないのだから ぼくは地獄へ行くのだろうかとよく思う
 
甘えた考えを、葉っぱでできた船みたいにうかべて壊す ニュースを見て遠くの国で起きている戦争のことを考えることも 血まみれの人や引きちぎれた動物の胴体の写真を集めてしまうことも だれかの死をしかつめらしく吟味してみることも 自分の苦しまなければいけないことを先送りにするための いわば、張りぼてであると ほんとうは気づいている 真面目な顔をして ぼくはあらゆるものを侮辱しているにすぎない そういう存在がどうして まっとうに認めてもらえるのだろう ぼくが言葉を記すたびに ぼくはあらゆるものを侮辱している それはこれがモラトリアムのために書かれている文章だからだ それをわかっている わかってはいるのに どうしてぼくはこんなに弱いんだろう ぼくは何も侮辱したくはない ただありのままの世界、ぼくの見つめる世界を、心を、人を、愛せるような素敵な文章が書けたらいいのに ありのままを見つめるために ぼくはぼくの弱さに 宣戦布告しなければならないんだ その弱さこそが いままでぼくを守ってきてくれたものなのに
辟易する でも負けない、虚勢でもいいから、負けないと言っておく どうせすぐ自分に裏切られる、それはわかっているけれど、叫ばれなかった叫びと、叫ばれた叫びでは、どちらのほうがいいのか考えたとき やっぱ、叫んどいたほうが 得っていうか そんな気がする
 ま、いいや

memo
行人 (新潮文庫)