完璧な共感はひとつの孤独に集約されてしまいます
それはひかりのないくらやみです ひかりのないくらやみとは くらやみとは呼べませんが 便宜上そう呼ぶことにします

本当はこんなにもわかりあえているのに
私たちの心はひとつに溶けあいすぎているんです

果実 赤い果肉をして、瑞々しいがささくれ立ち、ひりついた傷口を思わせる断面を持った果実 すみずみまでとおった神経のひとつひとつに染み渡る アブラムシの足あとのようにささやかな痛み が私の体全体に停滞して それはじょじょに濃さを増して 歳を取るごとに罅割れていく私のやわらかい肌若い肌青白い肌には、すみずみに蟲が棲んでいます それは私をちょっとずつ食べていきます 美味しい? 鉄の味がする。

どうしてもうまく理由づけることができず それはたとえるなら部屋のすみの床の上に伏せたまま本が開いてあるとか 食パンの上に小鳥の死骸が乗っているとか 視界の隅に一メートルの大きさの蛾がいるとか あとは絶えず耳の奥で聞こえるささやき声とか…そういう感じのものです。 私は自分の軽さ、重さ、孤りぼっちのこと、死ぬこと、などに目を逸らして生きていて それは今述べたようなものみたいに 自分のどこかに釣り針のようにひっかかっていて 私の心臓の右はじのちょっと裏のところの皮は赤く熱を帯びて潤んで充血してひきつっているんです そしてそこから膿のような黄色い濁った涙が出てくるので、それは毒なので、息が苦しくなります

でも、人はある程度すきです やっぱり
駅のなかとかは本当怖いんですけど でも面白いこととか、にっこりできることとかはすきです
ただ私がクルミのようなだけで ただ一人でからから鳴っているっていうだけです どれほどばかみたいにうつるでしょう

ひとつひとつのことを解きほぐすには時間がかかりそうです
でもよく考えて注意深く言葉を選んで物語る必要もありそうです(それは自分にとって、です) そこに何かひとつ素敵なものがあるようには思えませんが そうするよりほかにやりかたがわからない、という人間もいるんです
残酷だ、と思います時々
何が残酷なのか? 何も見当たらないのに ここがときどきなだらかな砂丘の続く永遠に不毛の砂漠の星であるように思えるのです